インドネシアのハラール認証で見落とされがちなポイント:ハラール管理責任者(Penyelia Halal)の役割

[投稿日]2026.09.07
[更新日]
コラム
ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

この記事の執筆者:ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

インドネシア大学法学部卒業。インドネシア個人情報保護責任者(DPO)。日本語能力試験1級合格。

弁護士 中村天洋

弁護士 中村天洋
第二東京弁護士会

この記事の監修者:弁護士 中村天洋

司法修習修了後、検事任官(東京地検、水戸地検等)。検事退官後、2021年上原総合法律事務所に入所。インドネシアにおいて現地法人の運営等を行うなど現地の法務にも精通。

インドネシアで事業を行う企業がハラール認証を取得するためには、製品や事業内容の確認から申請に必要な書類の準備まで、さまざまな対応が必要となります。 その中でも、見落とされがちなポイントの一つが、ハラール管理責任者(Penyelia Halal)の選任です。

本記事では、ハラール管理責任者とは何か、その要件や役割、ハラール監査員(Auditor Halal)との違い、さらにハラール管理責任者を選任する際に企業が押さえておくべきポイントについて解説します。

第1 ハラール管理責任者(Penyelia Halal)とは

ハラール管理責任者(Penyelia Halal)とは、企業においてハラール製品の製造・提供に関する工程を管理する責任者を指します。簡単に言えば、企業内部でハラールに関する基準が適切に実施されるよう監督・調整する担当者です。

ハラール認証を申請する事業者は、ハラール管理責任者を選任する必要があります。また、インドネシアの主要なハラール検査機関(Lembaga Pemeriksa Halal:LPH)が実施したウェビナーによると、ハラール管理責任者をフリーランスとして外部から起用することはできず、社内の人材から選任する必要があります。

注意点

インドネシアの法令上、外部の者やその他の第三者が企業のハラール管理責任者となることは可能です。ただし、事業規模や企業のリスク区分に関する規定により、外国企業または外国人や外国企業が出資してインドネシアに設立した会社(PMA)については、この取扱いは適用されません。そのため、外国企業またはPMAでは、ハラール管理責任者を雇用するか、自社の従業員をハラール管理責任者として選任する必要があります。

PMAを通じてハラール認証の取得を検討されている場合は、PMAに関する規定やリスク区分について、以下の記事もあわせてご参照ください。

外国人の資本で行うインドネシア会社設立:日本人が知っておきたいポイント

第2 ハラール管理責任者の要件

一般的に、ハラール管理責任者として選任されるためには、以下のような要件を満たす必要があります。

1 イスラム教徒であること

ハラール管理責任者は、原則としてイスラム教徒である必要があります。これは、事業活動においてハラール基準が適切に実施されているかを確認・監督する役割を担うためです。

2 ハラール製品に関する基準を理解していること

材料や製造工程を適切に管理・監督し、製品のハラール性に影響する問題が発生した場合に必要な対応を行えるよう、ハラールに関する基準を十分に理解している必要があります。 例えば、ハラールであることが確認できていない原材料の使用、ハラール原材料と非ハラール原材料の混在、ハラール基準を満たしていない製造設備の使用などが挙げられます。

3 ハラール管理責任者として必要な研修・能力要件を満たすこと

ハラールに関する知識だけでなく、業務を行うために必要な能力も求められます。例えば、原材料や製造工程の管理・監督、社内での確認・点検、問題が発生した場合の是正対応などを行う能力が必要となります。これらの能力は、適用される要件に従い、ハラール管理責任者向けの研修や、職業認証機関(Lembaga Sertifikasi Profesi:LSP)による能力認証を通じて身につけることができます。能力認証は、ハラール管理責任者に関するインドネシア国家職業能力基準(Standar Kompetensi Kerja Nasional Indonesia:SKKNI)に基づいて行われます。

実務上のポイント

当社がハラール製品保証実施機関(Badan Penyelenggara Jaminan Produk Halal:BPJPH)に確認したところ、ハラール管理責任者にインドネシア国籍は必須ではありません。そのため、適用される要件を満たしていれば、外国人をハラール管理責任者として選任することも可能です。一方、研修や実際の業務は基本的にインドネシア語で行われるため、インドネシア語で対応できる人材を選任することが推奨されます。

第3 ハラール管理責任者の役割・業務

ハラール管理責任者は、事業活動においてハラール基準が継続的に遵守されるよう管理・監督する役割を担い、主な業務は以下のとおりです。

1 原材料および製造工程の管理・監督

原材料や製造工程がハラール基準を満たしていることを確認し、原材料の受入れ・保管、加工、調理、製品の提供など、各工程を管理・監督します。

2 是正・予防措置の決定

製品のハラール性に影響する問題が確認された場合には、問題を是正するとともに、同様の問題が再発しないよう必要な対応を決定します。

3 社内におけるハラール基準の実施・調整

ハラール基準が社内で適切に実施されるよう、必要な手続や書類の管理、社内ルールの整備などを行います。また、従業員がハラールに関するルールを理解できるよう、従業員への周知や研修も行います。

4 ハラール監査員による検査への対応

ハラール監査員による検査に立ち会い、ハラール認証に必要となる書類、原材料、情報等の準備や提供を行います。

第4 ハラール管理責任者とハラール監査員(Auditor Halal)の違い

ハラール監査員(Auditor Halal)とは、ハラール検査機関(Lembaga Pemeriksa Halal:LPH)から任命され、ハラール認証の過程において、製品がハラール基準に適合しているかを検査・試験する専門家です。検査では、使用される原材料や製造工程など、製品のハラール性に関わる事項が確認されます。

ハラール管理責任者とハラール監査員は、一見すると役割や業務内容が似ているように見えます。ハラール管理責任者とハラール監査員の違いを分かりやすく整理すると、以下のとおりです。

ハラール管理責任者 ハラール監査員
立場 社内 社外 (LPHを通じて実施)
主な役割 社内におけるハラール基準の実施状況を継続的に管理・監督する ハラール認証のために製品がハラール基準を満たしているかを検査・試験する
主な業務 ・製造工程がハラール基準を満たしていることを確認する
・問題が生じた場合の是正・予防措置を決定する
・社内におけるハラール基準の実施を調整する
・ハラール監査員による検査に立ち会う
ハラール認証に必要な検査を行う
認証手続における役割 ・企業がハラール基準を満たすための準備を行う
・ハラール監査員による検査に立ち会い、対応する
ハラール認証手続の一環として、製品のハラールに関する検査を行う
認証取得後の役割 事業活動においてハラール基準が継続的に遵守されるよう管理する 企業内部の日常的な管理・監督は行わない

まとめると、ハラール監査員は、ハラール認証の一環として検査を行う社外の専門家であるのに対し、ハラール管理責任者は、社内でハラール基準が継続的に遵守されるよう管理・監督する担当者です。

第5 ハラール管理責任者が重要な理由

ハラール管理責任者は、ハラール認証の取得時だけでなく、認証取得後もハラール基準を継続的に維持するうえで重要な存在です。具体的には、以下のような点が挙げられます。

ハラール認証申請時に必要となるハラール管理責任者の情報

ハラール認証を申請する際には、選任したハラール管理責任者に関する情報や関連書類の提出が必要となります。そのため、検査開始後ではなく、認証申請の準備段階からハラール管理責任者を選任しておくことが重要です。

ハラール性の継続的な維持

原材料、仕入先、製造方法、保管方法などの変更は、製品のハラール性に影響する可能性があります。ハラール管理責任者は、こうした変更による影響を確認し、必要な対応を行います。

ハラール性に関するリスクの軽減

社内で継続的に管理・監督することで、基準を満たしていない原材料の使用や、ハラール原材料と非ハラール原材料の混在など、製品のハラール性に影響する問題を防ぐことにつながります。

検査に備えた体制の維持

ハラール基準への対応状況や必要な書類を適切に管理することで、検査や確認が必要となった場合にもスムーズに対応できます。

顧客の信頼維持

ハラール基準を継続的に遵守することは、ハラール認証を取得した製品に対する顧客の信頼にもつながります。

第6 ハラール管理責任者の選任タイムライン

1 インドネシア市場への進出を検討

市場調査を行うとともに、必要となる許認可や認証について確認します。その際、予定している製品や事業活動について、ハラール認証が必要となるかどうかも確認します。

2 インドネシアで会社の設立・事業開始に向けた準備

ハラール認証の申請にあたり、日本企業を含む外国企業は、必ずしもインドネシア国内に会社を設立する必要はありません。一方、外国人や外国企業が出資してインドネシアに会社を設立する場合には、PT PMA(外国資本による有限責任会社)を設立し、インドネシア国内で事業を行うことができます。

インドネシアでのPT PMA設立については、以下の記事もご参照ください。

外国人の資本で行うインドネシア会社設立:日本人が知っておきたいポイント

3 ハラール管理責任者の選任

要件を満たす既存の従業員からハラール管理責任者を選任するほか、ハラール管理責任者として勤務する従業員を新たに採用することもできます。選任する人材が、適用される法令上の要件を満たし、研修の受講などを通じて、ハラール管理責任者として求められる能力を備えていることを確認する必要があります。

4 ハラール基準の適用に向けた準備

ハラール管理責任者の選任後、原材料や仕入先、保管方法、設備、製造・加工方法、書類の作成・管理、社内ルールや作業手順などが、ハラール基準を満たしていることを確認します。製造工程に直接関わる従業員に対して、ハラールに関する社内研修を実施することもあります。

5 ハラール認証の申請

選任したハラール管理責任者に関する情報やその他の必要書類 を提出し、ハラール認証を申請します。

ハラール認証の申請要件、必要書類、申請手続の流れについては、以下の記事もご参照ください。

インドネシアのハラール認証: 事業者向け実務ガイド

6 ハラール監査員による検査

ハラール監査員による検査が行われます。ハラール管理責任者は検査に立ち会い、必要な書類、原材料、情報等の準備や提供を行います。

7  ハラール管理責任者による継続的な管理

ハラール認証の取得後も、ハラール管理責任者は、事業活動においてハラール基準が継続的に遵守されるよう管理・監督します。新しい原材料を使用する場合や仕入先を変更する場合などには、その変更が製品のハラール性に影響しないことを確認します。

まとめ:ハラール認証の準備で見落とされがちなハラール管理責任者

ハラール管理責任者(Penyelia Halal)は、インドネシアへの事業進出を検討・準備する際に、見落とされがちなポイントの一つです。ハラール管理責任者は、ハラール認証の取得手続に必要となるだけでなく、事業を行う中でハラール基準が継続的に遵守されるよう管理する重要な役割を担います。

そのため、ハラール認証の取得を予定している企業は、事業準備の早い段階からハラール管理責任者の選任を検討し、選任する人材が必要な要件や能力を備えているか確認しておくことが重要です。早い段階から準備することで、ハラール認証の取得手続きを円滑に進めるとともに、認証取得後も継続的にハラール基準を遵守できる体制を整えることができます。

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