
ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki
この記事の執筆者:ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki
インドネシア大学法学部卒業。インドネシア個人情報保護責任者(DPO)。日本語能力試験1級合格。
弁護士 中村天洋
第二東京弁護士会
この記事の監修者:弁護士 中村天洋
司法修習修了後、検事任官(東京地検、水戸地検等)。検事退官後、2021年上原総合法律事務所に入所。インドネシアにおいて現地法人の運営等を行うなど現地の法務にも精通。
近年、多くの企業がウェブサイトやアプリ、デジタルプラットフォームを活用し、海外市場への展開を進めています。これにより、現地法人や支店を設立しなくても、海外の顧客に対して商品やサービスを提供することが可能となり、インドネシア市場への進出を検討する企業も増えています。
一方で、このようなデジタルサービスの提供に伴い、インドネシアにおける法的義務が発生する場合があります。インドネシア国内のユーザーが利用できるウェブサイトやアプリ、その他の電子システムを運営している場合、サーバーや本社がインドネシア国外に所在していても、電子システム事業者(Penyelenggara Sistem Elektronik:PSE)としての登録が必要となることがあります。
本記事では、PSEとは何か、登録手続や必要書類、どのような電子システムがPSE登録の対象となるのかを判断するための基準、さらに登録義務を履行しなかった場合に生じるリスクについて解説します。
目次
第1 インドネシアのPSE登録とは
電子システム事業者(Penyelenggara Sistem Elektronik:PSE)とは、自社のため、または他者のために、ウェブサイト、アプリケーション、デジタルプラットフォームその他の電子サービスを提供・管理・運営する事業者を指します。
PSEは大きく、インドネシア企業(外国人や外国企業の資本が入った形で会社であるPT PMAを含む)が運営する「国内PSE(PSE Domestik)」と、外国企業が運営する「外国PSE(PSE Asing)」の2つに分類されます。また、国内PSEはさらに、政府機関が運営する「国内公共PSE(PSE Domestik Publik)」と、民間企業等が運営する「国内民間PSE(PSE Domestik Privat)」に区分されます。
外国PSEと国内民間PSEでは適用される登録区分が異なるため、本記事では外国PSEに焦点を当て、外国企業が運営する電子システムがインドネシアで登録義務の対象となるかを判断するための基準について解説します。なお、PT PMAを含むインドネシア国内で設立された企業に適用される登録義務については、別の記事で取り上げる予定です。
なお、外国PSEの登録は、インドネシアにおける事業許可(ビジネスライセンス)の取得とは異なります。PSE登録は電子システムに関する登録制度であり、インドネシアで事業を行うための許認可そのものではありません。そのため、事業内容によっては、PSE登録とは別に事業許可の取得が必要となる場合があります。
インドネシアにおける事業許可やPT PMA設立について詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
外国人の資本で行うインドネシア会社設立:日本人が知っておきたいポイント
第2 日本企業も外国PSEとして登録が必要になる場合がある
PSE登録義務は、インドネシア国内に所在する電子システムや、インドネシア企業が運営する電子システムのみに適用されるものではありません。外国PSEにも適用される可能性があります。具体的には、インドネシア国外に所在するサーバー、ウェブサイト、ポータルサイト、アプリケーションであっても、外国企業によって運営されており、以下のいずれかの要件を満たす場合には、外国PSEに該当する可能性があります。
- インドネシア国内の利用者にサービスを提供していること
- インドネシア国内で事業活動を行っていること
- インドネシア国内の利用者に向けて提供されていること
このように、電子システムが後述する対象サービスを提供しており、かつ外国PSEに関する要件のいずれかを満たす場合には、その電子システムがインドネシア国外に所在し、国外から運営されている場合であっても、PSE登録義務の対象となる可能性があります。
第3 サーバーが日本にあってもPSE登録が必要となる理由
PSE登録制度は、国内PSEおよび外国PSEを問わず、インドネシア国内の利用者に提供される電子サービスについて、電子システムの安全性や個人データ保護を確保するとともに、法令に基づく監督および法執行を実効的に行うことを目的としています。
もっとも、外国企業が運営するすべてのウェブサイト、アプリケーション、または電子システムが自動的にPSE登録義務の対象となるわけではありません。また、外国PSEの中には、そもそもインドネシア市場を対象としていないサービスも存在します。 そのため、PSE登録の要否を判断する際には、サーバーの所在地のみではなく、提供するサービスの内容や利用者層、インドネシア国内との関連性を総合的に検討する必要があります。
第4 PSE登録の対象となる主なサービス
原則として、PSE登録義務はインターネット上のすべてのサーバー、ウェブサイト、ポータルサイト、またはアプリケーションに適用されるものではありません。インドネシアの法令上、PSE登録義務は一般的に、以下のような特定のサービスを提供する電子システムに対して適用されます。
- 商品またはサービスの提供・販売(オンラインショップや予約システムなど)
- 金融取引サービス
- 有料デジタルコンテンツの配信
- 電子メール、インスタントメッセージ、音声通話、ビデオ通話、SNSなどのコミュニケーションサービス
- 情報検索サービス・デジタルコンテンツ提供サービス
- 電子サービスに関連する個人データの収集・処理
したがって、PSE登録義務は、一般的に、電子システムが上記のいずれかのサービスを提供している場合に生じます。
第5 PSE登録が必要となるケース・不要となるケース
| システムの種類 | PSE登録の要否 |
| インドネシア国内でレストランまたはホテルの予約サイトを運営するPT PMA | 必要(国内民間PSE) |
| インドネシアの利用者向けに日本語学習教材をオンライン販売する日本企業 | 必要(外国PSE) |
| インドネシア人求職者を対象とする日本企業運営の求人マッチングサイト | 必要(外国PSE) |
| インドネシアからアクセス可能で、インドネシアの利用者による予約を受け付けている日本企業運営のホテル予約サイト | 原則として必要(外国PSE) |
| 会社概要のみを掲載するコーポレートサイト | 原則として不要 |
| 取締役や経営陣のみが利用する管理ダッシュボード | 原則として不要 |
| 一般公開されていない社内システム | 原則として不要 |
第6 外国PSEの登録手続と必要情報
PSE登録は、原則として電子システムごとに行われます。そのため、複数のウェブサイト、アプリケーション、またはデジタルプラットフォームを運営している場合、1つの企業が複数のPSE登録を行うケースもあります。PSE登録手続は、OSS(Online Single Submission)のウェブサイトを通じてオンラインで行うことができ、インターネット環境があれば手続を進めることが可能です。外国PSEとして登録を行う場合は、まずOSS上で「外国事業者(Badan Usaha Luar Negeri)」としてアカウントを作成し、事業者区分として「外国PSE(PSE Asing)」を選択する必要があります。
外国PSEの電子システムを登録する際には、一般的に以下の書類が必要となります。
- 会社代表者または会社の担当者のパスポート
- インドネシア語の宣誓翻訳(Sworn Translation)が付された会社登記簿
- インドネシア語で作成された電子システムの適格性評価に関する書類
- OSSが定める様式に基づく電子システムに関する誓約書
また、OSS上での登録手続にあたり、一般的に以下の事項についての説明が求められます。
| 1. | サーバーまたはウェブサイトの名称 | 7. | ウェブサイトの機能(概要および詳細説明) |
| 2. | ウェブサイトの業種・事業分野 | 8. | ウェブサイトの業務フロー・事業内容(概要および詳細説明) |
| 3. | ウェブサイトのURL | 9. | 取り扱う個人データの種類 |
| 4. | ドメインネームシステム(DNS) | 10. | インドネシア国内の利用者数 |
| 5. | ビジネスモデル | 11. | インドネシア国内における取引額 |
| 6. | 監督機関および法執行機関に対するアクセス提供に関する誓約 | 12. | ウェブサイトおよびデータの管理・処理・保管場所 |
第7 PSE登録をしない場合のリスク
国内PSE・外国PSEを問わず、PSEには登録義務が課されているほか、登録情報に変更が生じた場合には、その内容を適切に更新する必要があります。これらの義務を履行しない場合、インドネシア政府から行政上の措置を受ける可能性があり、一時的なサービス停止や電子システムへのアクセス遮断(Access Blocking)といった措置が取られることがあります。
特にアクセス遮断は、PSEが運営するウェブサイト、アプリケーション、またはプラットフォームがインドネシア国内から利用できなくなる可能性があるため、非常に影響の大きい措置といえます。実務上も、事業運営への支障、顧客対応の停滞、さらには経済的損失につながる可能性があります。
第8 PSE登録義務の確認で注意すべきポイント
一般的に、ウェブサイトや電子システムがインドネシア国外で運営されており、インドネシア市場を対象としておらず、またインドネシアのユーザーを明確なターゲットとしていない場合には、PSE登録義務の対象となる可能性は比較的低いと考えられます。もっとも、実際にPSE登録が必要となるかどうかは、提供されるサービスの内容や事業モデルによって判断されるため、個別のケースごとに検討する必要があります。
まとめ:インドネシア向けデジタルサービスは事前確認が重要
サーバーやウェブサイトがインドネシア国外に所在しているという理由だけで、PSE登録義務が免除されるわけではありません。PSEの対象となるデジタルサービスを提供しており、そのサービスがインドネシア国内で利用されている場合や、インドネシアの利用者に向けて提供されている場合には、インドネシア法令に基づきPSE登録が必要となる可能性があります。
そのため、インドネシア国内の利用者がアクセス可能なウェブサイト、アプリケーション、またはデジタルプラットフォームを展開する際には、将来的なアクセス遮断や事業運営上のリスクを回避するためにも、事前にPSE登録義務の有無を確認することをおすすめします。
お気軽にお問い合わせください
上原総合法律事務所では、インドネシアへの事業展開をご検討されている企業様を対象に、各種ご相談を承っております。法規制の整理や事業スキームの検討をはじめ、実務面も含めて、企業様それぞれの状況に応じたご相談が可能です。
ご不明な点やご相談事項がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
