
令和8年1月23日、高市首相の指示で発足した関係閣僚会議は「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(以下「本対応策」)を公表しました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/index.html
本対応策は98頁に及び、外国人雇用の側面では在留資格制度の在り方、不法就労対策、特定技能・育成就労制度の運用、在留管理DXなどについて網羅的に言及しています。
本稿では、本対応策の発表を踏まえ、外国人雇用実務が今後どのように変わりうるか、特に実務上どのような点に注意すべきかを、就労系在留資格を主に取り上げて解説します。
目次
1 本対応策の全体像
本対応策は、「既存ルールの遵守、各種制度の適正化」を大きな柱とし、外国人雇用については、「形式的に要件を満たしているか」ではなく、「制度趣旨に沿った雇用・就労が実態として行われているか」を重視する内容となっています。
その上で、本対応策では、外国人労働者の増加に伴い、制度の想定を超えた不適切な就労が生じている現状を指摘し、「公正かつ明確なルールの設定とその厳正な運用」、および「実態の正確な把握を進める必要性」を明記しています。
このような外国人雇用における在留資格制度の「就労資格の不適切利用に関する実態把握と厳正な運用」という姿勢は、以下で見る各在留資格の運用方針に色濃く表れています。
2 在留資格別にみる実務への影響
(1)在留資格「経営・管理」― 形式・名目的経営の排除へ ―
在留資格「経営・管理」は、日本で事業を営む会社や事業所を経営または管理する立場として活動するための在留資格です。
経営・管理の在留資格をめぐっては、これまで、実際の事業活動が十分に確認できない事例や、形式だけを整えた申請が相当数見受けられたことを踏まえ、令和7年10月16日から許可基準の見直しが行われました。
この見直しにより、資本金規模や雇用体制などに関する要件が従前より厳格化されています。これは、経営・管理の在留資格制度の本来の目的に沿って、日本において実際に事業を運営し、経営・管理業務を真に遂行する外国人を適切に受け入れることを目的としたものです。
本対応策では、このような基準の改正施行がされた後においても、
「施行日以前から同資格により在留が認められている事案の中には、いまだ事業の実態に疑いが持たれる案件も存在する」と指摘しています。
その上で、「事業実態を明らかにして在留資格・在留管理の適正化を進める必要がある」
とし、事業の実態確認を重視する姿勢を示しています。
さらに、「速やかに実施する施策」として
「特に同一ビルに小規模な事務所が集中しているケース等については、その事業実態に疑いが持たれることから、そのような事案に対しては、実態調査等を行うことで厳格な審査を実施し、処分するよう取り組む。」と、具体的な調査対象像まで踏み込んで言及しています。
実務上の注意点
本対応策を踏まえ、経営・管理の在留資格者にとって重要な点は、「事業の実態」を継続的に維持する必要があるという点が挙げられるかと思います。
本対応策によれば、経営管理の在留資格を維持するため、単に法人登記をして事務所を借りているだけでは不十分であり、実際に売上が立っているか、取引先が存在するか、外国人経営者本人が実質的に経営判断・業務遂行に関与しているか、従業員の雇用、税金・社会保険料の納付が適正に行われているかといった「事業の実態」について、これまで以上に厳正な審査確認がなされることになります。
なお、近時、経営管理の在留資格の取得厳格化を踏まえ、既存の小規模日本法人をM&A等で取得し、申請資格を満たそうとするケースも増えているようです。
しかしながら、本対応策を踏まえると、結局は「当該外国人による経営実態を伴うか」が主に審査されると思われます。そのため、「在留目的で日本に会社を持っているだけ」のように見える場合、調査対象となり、在留資格の不許可・取消しリスクが高まると想定される点には注意が必要です。
(2)在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)―在留資格で定められた就労可能業務と実際の職務内容の乖離は許されない―
在留資格「技術・人文知識・国際業務(いわゆる「技人国」)」は、大学や専門学校で学んだ知識や職歴を活かして、専門的・知的な業務に従事するための在留資格です。
エンジニア、経理・法務、営業企画、通訳・翻訳などのいわゆる「ホワイトカラー業務」が典型例となります。
本対応策では、技人国の在留資格について
「派遣による就労の具体的活動内容の実態が十分に把握できていない」
「認められた活動内容に該当しない業務に従事するなど、受け入れた外国人が資格該当性のない業務に従事する事案」
を、明確な課題として挙げています。
これを受けて
「資格該当性のない業務に従事させている疑いのある受入れ機関や派遣先における活動状況を調査し、審査の厳格な運用を行うとともに許可の在り方を検討する。」
「申請書類の見直しを含めた在留審査等に係る運用の改善に取り組む。」
と明示しています。
実務上の注意点
技人国の在留資格で最も多い誤解は、「技人国の在留資格者は、どのような業務に従事させてもよい」というものです。
技人国は、上記のとおり、学歴・職歴と結びついた専門的・知的業務に従事することが想定されています。そのため、実際に従事する業務が、製造工場ラインや建築現場での作業、飲食店のホール・調理、宿泊施設で清掃などの単純労働のみの場合、外国人本人が不法就労として逮捕、強制送還の対象となるだけでなく、雇用主や担当者も不法就労助長罪に問われる可能性がある点は経営リスクとして極めて重要な点となります。
※不法就労については、「不法就労による外国人労働者、事業主・担当者の摘発が増加―「知らなかった」では済まされない外国人雇用のリスク」のコラムもご覧ください。
なお、外国人労働者に提示した職務内容説明書記載の業務内容と、実際の従事業務が一致しないことによる外国人材の早期離職等も多く発生しています。外国人材紹介業者等に任せるのではなく、必ずご自身の目で確認するようにしてください。
(3)在留資格「特定技能」―厳正な審査と審査迅速化による在留者数の増加―
在留資格「特定技能」は、人手不足が特に深刻な分野において、一定の技能水準と日本語能力を有する外国人が、現場の実務労働に従事することを認める在留資格です。
建設、介護、外食、製造業など、定められた分野に限定して就労が可能とされています。
技人国とは異なり、単純作業・現場業務への従事が制度上予定されている点が大きな特徴です。
本対応策では、特定技能について、評価試験等の合格証明書をめぐる不正の発生を踏まえ、
「より厳正な審査に向け、特定技能評価試験等の合格証明書の偽変造防止のための更なる措置を講じる。」
と述べる一方で、現在、特定技能外国人労働者については、申請に対する審査が間に合っておらず、申請から審査完了まで1-3カ月前後(場合によってはそれ以上)の時間を要しているため、
「標準処理期間内の処理を励行し、迅速な処理を行う。」
と明記され、特定技能の在留資格認定申請に対する審査の迅速化を進めることに触れています。
この点に関し、令和8年1月23日に出入国在留管理庁等から発表された特定技能1号(最長5年の在留期間)の受け入れ上限案は、19分野で80万5700人と示されています。本稿執筆時(令和8年2月1日)時点で公表されている特定技能労働者数(令和7年6月時点、特定技能1号及び2号の合計)が33万6196人です。
そのため、審査速度が向上すれば、今後、特定技能労働者の雇用数は年々更に増加し、全外国人労働者に占める割合がより多くなっていくことが確実視されます。
https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri07_00215.html
実務上の注意点
特定技能は受け入れ上限数まで未だ50万人程度の余裕があるため、今後も「人手不足対策」として採用の増加が見込まれます。
また、前述のとおり、本来は不可である単純労働のみに従事していた「技人国」の外国人労働者に対する摘発が厳しくなると想定されますので、法令遵守やリスク回避の観点から、適法に単純労働に従事させることができる特定技能労働者への置き換えが進んでいくと考えられます。
一方で、「試験合格証明書や日本語能力証明の真正性」については、より厳格に審査が行われると発表されています。そのため、外国人を受け入れる事業者は、「紹介会社や登録支援機関に任せているから大丈夫」と考えるのではなく、自社でも特定技能制度の中身を十分理解の上、登録支援機関等と連携し、適正な雇用を確保・維持するよう努めることが求められます。
(4)在留資格「育成就労」― 制度移行期における最大の注意点 ―
育成就労とは、従来の技能実習制度に代わり、外国人を「人材育成」と「労働力確保」の両立を目的として受け入れる新制度です。一定期間の就労を通じて技能を段階的に習得させ、原則として特定技能への円滑な移行を前提とする点に特徴があります。
本対応策では、技能実習から育成就労制度への移行について、
「令和8年度に施行日前申請、令和9年度からの施行」
とし、令和8年度中から育成就労労働者の申請受付を開始し、令和9年4月から移行を円滑に進められるよう方針を示しています。
なお、育成就労の受け入れ上限数については、令和8年1月23日時点で、17分野で42万6200人とする案が出入国在留管理庁等から発表されています。
その他、育成就労に関して、本対応策では、
「日本語教育の適正かつ確実な実施」
「地域協議会の設置及び活用」
など、受入企業の関与を前提とした運用が明記されています。
実務上の注意点
育成就労外国人労働者を受け入れる事業主として特に注意すべき点は、技能実習と異なり、転籍制限期間が設定される点です。
育成就労では、人材育成・地方配慮の観点から、一定期間(1-2年の範囲を予定)の転籍制限が設けられる方向で予定されており、期間経過後は転籍が可能となります。
受入企業側は、制限期間経過後、転籍される可能性があることを十分に認識し、育成就労外国人が同じ職場で特定技能1号⇒2号と長期に定着し、働きたいと思う職場づくりを目指していく必要があります。
また、技能実習時代のように「途中離脱を前提としない設計」は成り立ちませんので、この点も十分な注意が必要です。
さらに、本対応策にも記載のとおり、日本語教育・生活支援が従来以上に重視されます。育成就労では、日本語教育について、認定日本語教育機関の活用や来日前・来日後を通じた継続的な教育体制の整備が制度上明記されており、形式的な研修実施では足りません。
受入企業自身が、日本語能力向上や支援体制を整備することが、育成就労計画の認定、育成就労外国人の定着等に影響を与えると想定されます。
加えて、地域協議会との関係も見落とせません。
地域協議会とは、外国人材の受入れ・定着を地域単位で支えるために設置・活用される協議体です。国が一律に管理するのではなく、地域協議会や地方公共団体が育成就労に関与し、地域の実情に即した運用を行うことを目的としています。
受入企業が地域から孤立した形で育成就労させるのではなく、自治体や関係機関との連携を前提にした受入れ体制を構築する必要があり、この点が今後、育成就労制度を運用していく上で、受入先として評価されるポイントとなることが予想されます。
3 不法就労対策―DXの活用と、警察・入管庁による合同摘発の時代へ―
本対策が掲げる事項の中で、外国人雇用の実務を考える際にもう1点重要な点をあげるとすれば、不法就労対策を強化すると述べている点です。
本対応策では
「偽変造、失効在留カードを利用して、就労可能であることを偽装して不法就労活動を行う事案」への摘発・対策を行うことを明示しています。
具体的な対策として、「在留カード等読取アプリケーション」を無料配布し、「アプリの周知や機能の充実」を進めるとしています。
外国人労働者を採用する際は、本人の同意を得た上で、下記からダウンロードできる在留カードの確認アプリに在留カード原本を通し、在留カードが偽造されたものでないか必ず確認するようにしてください。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/rcc-support.html
また、本対応策では、「外国人雇用状況届出情報等をもとに、入管DXの一環としてAI等を活用したデータ分析を行う」とも述べています。
これは、単なる出入国在留管理庁の事務効率化ではなく、不法就労や資格外活動、不適切な受入れを「事後的に発見する」から「兆候段階で把握する」運用への転換を意味すると言えます。
特に実務上は、外国人雇用状況届出の記載内容と、在留資格申請時の活動内容、また、実際の就労実態間の齟齬の有無が、データ上で横断的に突合され、AIによる分析により、「不自然なパターン」として抽出、調査・摘発の対象とされるリスクがあると考えられます。
そのため、今後は「届出を出していれば足りる」「申請が通っていれば何も問題がない」という意識では足りず、「後日の検証に耐える内容になっているか」という視点での対応・管理が不可欠となります。
更に本対応策によれば
「警察と合同で、不法就労助長者を含めた入管法違反者に係る摘発を積極的に行う」
「不法就労助長者については、刑事処分の内容にかかわらず、警察等から情報提供を受けるなどして積極的に退去強制手続を執ることとする」
とされ、警察と入管当局が連携し、不法就労に関する捜査・調査をこれまで以上に厳しく行う方針が明確に示されています。
また、不法就労した外国人本人だけでなく、これを雇用・関与した事業者側も「不法就労助長」として摘発対象となり得る点に注意が必要です。不法就労助長は入管法上の違反行為であり、事業者や関係者が刑事処分を受ける可能性も大いにあります。
この点は、別コラム「不法就労による外国人労働者、事業主・担当者の摘発が増加―「知らなかった」では済まされない外国人雇用のリスク」に詳細を記載していますので、あわせてご覧ください。
いずれにしても、事業主や担当者は、不法就労に対する調査・捜査が厳しくなることを踏まえ、在留資格や業務内容の確認を現場や紹介業者任せにせず、企業として不法就労発生を防止する管理体制を構築しておくことが重要です。
5 最後に―事業者に求められる視点-
今後、外国人雇用の実務現場においては、本対応策に記載されているとおり、現行の就労系資格はより厳格な審査・運用実態の把握が求められるようになります。
また、本対応策が、「警察と合同で、不法就労助長者を含めた入管法違反者に係る摘発を積極的に行うなど、効果的かつ効率的な摘発の推進に努める」と明示していることからも、事業者や担当者自身に対する不法就労助長罪による摘発も増加すると見込まれます。
これまで技人国の外国人労働者に対し、就労可能業務の範囲に反して専ら単純労働にのみ従事させていたような事業者は、これを機に就労可能業務と実際の業務の整合性を棚卸するようにしてください。
仮に就労可能業務と実際の従事業務が整合していないようであれば、今後も増加が予想される特定技能労働者の採用・切り替えが可能かを検討し、関連法令を厳格に遵守することが求められます。このような姿勢が事業を守り、また経営者・担当者自身の身を守ることに繋がります。
なお、もし自社の雇用する外国人労働者が不法就労に該当するか判断つかないような場合は、速やかに外国人雇用を専門とする弁護士・行政書士等に相談されることをお薦めします。
