「非自発的離職」とは~特定技能外国人の雇用が不可能になる意外な落とし穴~

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コラム

「ようやく特定技能外国人の採用が決まった。雇用契約も結び、行政書士を通じて入管へ申請してもらったところ、突然、『御社では特定技能外国人の採用ができません』と突き返された。」

「特定技能外国人が転職したいと言い出した。職場でのハラスメントが原因らしいが、本人の意思による退職なので、退職を認めて手続きをした。その後、暫くして入管から、『今後、御社は特定技能外国人の採用・更新ができなくなります』と伝えられた。」

特定技能外国人の雇用に伴い、このような悲劇が発生することがあります。その原因として、「非自発的離職者(ひじはつてきりしょくしゃ)」の発生と、その対応及び退職時の手続きによる場合があります。

「非自発的離職者」を発生させてしまうと、原則として1年間、法令違反を伴う悪質なケースでは最大で向こう5年間、特定技能や技能実習(新制度の育成就労を含む)の外国人の採用・更新ができなくなります。

本コラムでは、入管法および特定技能の運用要領等に基づき、経営者・外国人労務担当者が知っておくべき、「非自発的離職」に関する知識や取り扱いについて解説します。

1. 特定技能における「非自発的離職者」の定義

特定技能制度では、受入れ機関(企業)に対し、以下の要件を課しています。

特定技能雇用契約の締結日前1年以内、またはその締結日以後に、特定技能外国人と同じ業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと

つまり、特定技能外国人と雇用契約を結ぶ日から遡って過去1年間、あるいは契約締結後から現在に至るまでの間に、会社都合で従業員を辞めさせている場合、「受入れ機関としての適合性がない」と判断され、特定技能外国人の受入れが許可されないことがあります。

2. ここが危険!「非自発的離職」にあたる意外なケース

「当社はいままで外国人を解雇したことがないから大丈夫」と考えていませんか?

本規制の落とし穴は、非自発的離職の対象が必ずしも「外国人」に限られない点と、会社が当該の労働者を「解雇」した場合でなくても該当する可能性がある点です。

① 非自発的離職者は日本人労働者も対象になり得ます

非自発的離職者は、条文上、外国人労働者に限られず、同じ業務をしている日本人労働者も該当します。例えば、「外食業」で特定技能外国人を採用したい場合、過去1年以内に同じホールの日本人アルバイトや日本人正社員を会社都合で退職させてしまっていると、「非自発的離職者」を発生させた場合に該当し、特定技能外国人の採用が不可能・困難になります。

②「退職勧奨」に応じて退職した場合も要注意

形式上は「合意退職(自己都合退職)」の形をとっていても、実態として、会社側から退職を働きかけ(退職勧奨)、労働者がそれに従わざるを得なかった場合、「非自発的離職」と判断される場合があります。ハローワークの離職票において、離職理由が「事業主の都合による解雇(重責解雇を除く)」や「退職勧奨」となっているような場合、入管はこの記載と突合し、非自発的離職として扱う場合がありますので注意してください。

3. 【重要】外国人退職時の各種届出書面の書き方

自社で雇用していた特定技能外国人が退職した場合、企業は入管法に基づき、事由発生から14日以内に届出を行う義務があります。この際、「どの様式を使い、理由をどう書くか」という観点も重要です。

(1) 使用すべき届出様式

以下の様式を使用し、出入国在留管理庁へ提出します。

※出入国在留管理庁のウェブサイトはシステム更新等によりファイルURL(直リンク)が頻繁に変更されます。最新のファイルは、出入国在留管理庁公式ページより該当の「参考様式」をダウンロードしてご使用ください。

【出入国在留管理庁 公式ページ】 ▶ 特定技能所属機関・登録支援機関による届出(提出書類)

①契約期間満了や合意退職の場合 様式名: 特定技能雇用契約に係る届出書(参考様式第3-1-2号)

契約期間満了や、合意退職、自己都合退職、会社都合退職を問わず、雇用契約が終了した事実を報告する届出です。事由発生日(雇用契約終了日)から14日以内に随時届出として提出します。

②途中で退職・失踪した場合 様式名: 受入れ困難に係る届出書(参考様式第3-4号)

会社都合退職や、行方不明(失踪)、傷病、死亡、または1か月以上活動ができない事情が生じたこと等により、受入れが継続できなくなった場合に使用します。

③非自発的離職の経緯説明(該当する場合のみ) 様式名:受入れ困難となるに至った経緯に係る説明書(参考様式第5-11号)

会社都合退職など(「行方不明」や「1か月以上の活動未実施」以外の事由)が発生してしまった場合に、①の『受入れ困難に係る届出書』とあわせて提出し、詳細な経緯や特定技能所属機関の都合による具体的な事情を説明するための付属書類です。

(2)「セクハラ・パワハラによる退職」をどう記載すべきか?

例えば、上司が特定技能外国人にセクシャルハラスメントを行い、被害を受けた特定技能外国人が退職したいと申し出たとします。企業側は、解雇したわけでもないので、入管法の届出や雇用保険手続き上、「自己都合」退職扱いで処理して良いのではと考えるところです。しかし、本取り扱いには難しい落とし穴が潜んでいます。

Q. ハラスメント被害により特定技能外国人が退職した場合、届出書は「自己都合退職(本人からの申出による退職)」にチェックしてよいですか?

A. 十分な事実関係調査の結果、実際にハラスメント等があったと認定された場合、「本人の希望による退職」には該当しません。

そのため、届出書(様式3-1-2号等)の理由欄を「本人の希望」と選択して提出すると、実態を反映していない届出とみなされてしまいます。場合によっては、入管法違反(虚偽届出)として罰則等の対象となる可能性もあるため、十分に注意が必要です。

Q. では、正直に「その他(ハラスメントによるもの)」と書くしかないのでしょうか?

A. ハラスメントが調査の結果事実であれば、そのように記載するしかありません。

しかし、ハラスメントによる退職者は「非自発的離職者」の発生と評価され、入管の判断により1年間(法令違反を伴う悪質な場合は最大5年間)特定技能外国人の受入れができなくなる可能性があります。

つまり、非自発的離職者に該当する退職が発生してしまった時点で、事実を隠したり虚偽の理由を記載することは当然認められませんが、正直に記載した場合でも特定技能外国人の受入れが制限される可能性があるという非常に厳しい状況になります。

※なお、法的評価として、本当に当該事実が「ハラスメント」に該当するかは、大変難しい判断・評価を含むものです。そのため、自社で独自に判断することはせず、弁護士に相談・調査依頼することを強くお薦めします。

4. 弁護士が介入し「示談(合意退職)」すれば救済されるか?

よくいただく相談として、「弁護士を入れて示談金を払い、『円満な合意退職』という合意書を結べば、非自発的離職として扱われずに済むのか?」という点があります。

結論から申し上げますと、必ずしもそのような合意書で非自発的離職の問題が治癒するとは限りません。

①入管では「形式」ではなく「実態」が見られます

入管の審査では、当事者間でどのような合意書(示談書)が交わされたかだけでなく、「実質的に会社側からの働きかけ(退職勧奨)があったか」等が重視されます。

たとえ、形式が整った「合意退職」であっても、その発端が「会社側の人員整理」や「ハラスメント」であり、労働者が不本意ながらも金銭解決に応じて退職したに過ぎないと判断されれば、特定技能制度上は「非自発的離職」と認定されるリスクが残ります。

②ハローワークのデータとの整合性

示談が成立しても、離職票の離職理由を「自己都合退職」ではなく、「事業主の都合による解雇(重責解雇を除く)」や「退職勧奨」とした場合、入管はハローワークとのデータ照合でその事実を把握します。この場合、合意退職したとの示談書があっても「非自発的離職者」として扱われるリスクが生じます。

③それでも弁護士を入れるメリット

しかしながら、弁護士が早期に介入し、調査・対応することには大きな意味があります。早期に弁護士を介入させて事実関係を調査し、双方の言い分を整理することで、入管や労基署、労働組合等の介入の前に、「真に双方が納得した上での合意退職」が可能かを検討することができます。これにより、適切な着地点を探ることができ、今後の特定技能外国人等の雇用が不可能になるという最悪の事態を回避できる可能性が高まります。

最後に:そもそも非自発的離職を発生させない社内体制づくりが重要

特定技能制度における「非自発的離職」の規制は、一度該当してしまうと原則1年間、悪質な場合は最長で5年間も新規の特定技能外国人を受け入れられないばかりか、現在すでに雇用している特定技能外国人の在留期間の更新すら認められなくなるという極めて重いペナルティが発生するものです。

これは、日本人労働者の採用が難しくなってきている昨今、会社の要員計画に致命的な影響を与えかねません。そのため、まずは何よりも、非自発的離職をそもそも発生させない会社の体制づくりが最大の予防策になります。

また、特定技能外国人を雇用しているが、適切な退職処理の仕方がわからず、届出書の書き方も自己判断で適当に進めてしまった結果、後から取り返しがつかなくなるケースも発生しています。

特に非自発的離職者や特定技能外国人が関係するトラブルが発生した際は、非常に複雑な問題になります。

そのため、紛争が大きくなる前に、外国人雇用に精通する弁護士事務所へご相談ください。