
ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki
この記事の執筆者:ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki
インドネシア大学法学部卒業。インドネシア個人情報保護責任者(DPO)。日本語能力試験1級合格。
弁護士 中村天洋
第二東京弁護士会
この記事の監修者:弁護士 中村天洋
司法修習修了後、検事任官(東京地検、水戸地検等)。検事退官後、2021年上原総合法律事務所に入所。インドネシアにおいて現地法人の運営等を行うなど現地の法務にも精通。
日本企業がインドネシアで会社を設立する場合、外国人や外国企業の資本が入った形の会社(一般に PT PMA と呼ばれます)として設立されることが一般的です。しかし、このような会社を設立したからといって、すぐに外国人を雇用できるわけではありません。これは、日本人を含む外国人を雇用する場合にも同様です。
インドネシアでは、外国人の雇用は複数の法律によって規制されており、就労許可やビザなどの手続きを適切に行う必要があります。
本記事では、インドネシアにおいて日本人を含む外国人材を雇用する際に、企業が押さえておくべきポイントについて解説します。具体的には、関連する法規制、留意すべき実務上のポイント、インドネシア人労働者を雇用する場合との違い、そして外国人材に課される制限などを取り上げます。今後、インドネシアで事業を展開し、PMAにおいて外国人を雇用することを検討している企業にとって、本記事が判断や実務対応の一助となれば幸いです。
規制当局と法制度の概要
インドネシアにおける外国人労働者の雇用は、労働法だけで規制されているわけではありません。
入国管理、税務、社会保障など、複数の法律や制度によって管理されています。そのため、外国人雇用には複数の政府機関が関与しています。
例えば、労働省は労働政策全般を担当しており、外国人労働者の雇用許可などの手続きを管轄しています。また、入国管理総局は外国人のビザや滞在許可に関する事項を管理しています。さらに、投資調整庁は外国投資や事業許可に関する制度を管轄しており、外国企業の事業活動に関する重要な役割を担っています。
さらに、場合によっては地方政府も、企業の雇用状況やコンプライアンスを監督することがあります。このように複数の機関が関与するため、外国人を雇用する企業は、それぞれの制度を理解しながら手続きを進めることが重要になります。
外国人労働者の雇用
インドネシア人労働者との主な違い
基本原則
インドネシアの労働制度では、インドネシア人労働者の雇用を優先するという考え方が基本となっています。そのため、企業は原則として事業運営においてインドネシア人を優先的に採用することが推奨されています。
その結果、外国人労働者の雇用は一定の条件のもとでのみ認められています。例えば、専門的な知識や高度な技術が必要な場合や、国際的な経験が求められる場合、またはインドネシア国内で十分な人材を確保することが難しい職種である場合などに、外国人労働者の雇用が認められることが一般的です。また、外国人を雇用する企業には、インドネシア人従業員に対して知識や技術を共有すること、いわゆる 知識移転(Transfer of Knowledge) を行うことが求められる場合があります。
例えば、外国人材は、国際的なレストランチェーンの運営経験を有するレストランのオペレーション・マネージャー、特定の生産設備の設置に関する専門知識を有するエンジニア、又は国際的な経験が求められる建設プロジェクトにおける技術アドバイザーとして雇用されることがあります。このような場合、企業は知識や技術の移転が適切に行われる体制を整える必要があります。実務上、これらの移転は、現場での直接指導、現地従業員による補佐、又は社内研修プログラムなどを通じて行われ、インドネシア人労働者が段階的に当該外国人材の有する技能や知識を習得していくことが想定されています。
採用の目的
インドネシア人労働者の採用は、主に国内の雇用機会を創出し、国民の生活水準を向上させるとともに、国内人材の能力向上を促進することを目的としています。
一方で、外国人労働者の採用は、企業活動を支えるための専門知識や経験を活用することを目的としています。実務上、外国人労働者は、例えばホテル又はリゾートのマネージャー、市場拡大を担うビジネス開発マネージャー、製造分野のエンジニアや工場設備の設置技術者、又はITコンサルタントや日本料理の専門シェフといった、高度な専門性や国際的な経験が求められる職務において採用されることが多く見られます。さらに、外国人労働者には、現地スタッフに対して知識や技術を共有し、従業員全体の能力向上に貢献する役割も期待されています。
企業の責任とコンプライアンス
インドネシア人労働者を雇用する場合、企業は一般的な労働法上の義務を履行する必要があります。例えば、雇用契約を作成すること、法令に基づいた賃金を支払うこと、そして従業員を社会保障制度に登録することなどが求められます。
これに対して、外国人労働者を雇用する場合には、これらの義務に加えて、さらに多くの行政手続きが必要となります。具体的には、外国人雇用許可の取得、就労ビザおよび滞在許可の取得、外国人雇用に関する補償金の支払い、さらに政府機関への各種報告などが必要となる場合があります。このような理由から、外国人労働者の雇用は、インドネシア人労働者の雇用と比較して、手続きがより複雑になる傾向があります。
就くことができる職種と制限
インドネシア人労働者は、企業内のほぼすべての職種に従事することが可能です。これに対して、外国人労働者が就くことのできる職種には一定の制限が設けられています。
例えば、労働大臣令第228号(2019年)では、外国人が就くことのできる職種や分野について規定されています。これにより、建設業や不動産業、卸売・小売業、専門サービスやコンサルティング業、さらにはレストランやカフェなどの飲食業といった分野において、外国人労働者の雇用が認められています。
ただし、すべての職種が認められているわけではありません。特に、人事管理に関わる職種については外国人が担当することができないとされています。例えば、人事マネージャー、労務マネージャー、キャリアアドバイザー、面接担当者などの職種は、外国人が就くことのできない職種として規定されています。これらの制限は、政府規則第34号(2021年)に基づいて定められています。
注意すべきポイント
外国人と現地スタッフの人数構成
実務上、「外国人1人につきインドネシア人10人」という1:10の比率が必要と説明されることがあります。しかし、この比率は法律上明確に義務付けられているものではありません。
実際の制度では、外国人労働者を雇用する企業に対して、その外国人労働者に対応するインドネシア人の担当者(いわゆるカウンターパート)を指定することが求められています。この担当者は、外国人労働者から知識や技術を学び、それを社内の他の従業員へ共有する役割を担うことになります。
もっとも、このカウンターパートの指定義務はすべてのケースに適用されるわけではありません。例えば、外国人が取締役または監査役として就任している場合、駐在員事務所の責任者として勤務する場合、財団の役員として活動する場合、または一時的な業務に従事する外国人である場合には、この義務が適用されないことがあります。
外国人の就労期間
外国人を雇用する場合、インドネシアで働くことができる期間には一定の制限があります。一般的な例としては、以下のとおりです。
- 一時的な業務:最大6か月(延長不可)
- 6か月を超える業務:最大2年(延長可能)
- 外国人雇用補償基金(DPKK)の支払い対象外となる外国人:最大2年(延長可能)
- 経済特区での雇用:最大5年(延長可能)
- 経済特区の取締役・役員:在任期間中有効
また、これらの就労期間に関する制限は、すべての外国人に適用されるわけではありません。例えば、一定の株式を保有している取締役や株主として活動する外国人、外国公館に所属する外交関係者、又は非常事態への対応、職業教育、技術系スタートアップ、短期のビジネス訪問、研究活動など、一定の特定活動に従事する外国人については、状況に応じてこれらの制限が適用されない場合があります。
経済特区とは、投資及び経済活動を促進するために、インドネシア政府によって特別に指定された区域をいいます。この区域では、各種の事業上の便宜や優遇措置が設けられています。現在、インドネシア国内には24の経済特区が存在し、それぞれ異なる重点分野が設定されています。主な経済特区の例については、以下の表をご参照ください。

給与・税務・社会保障
外国人労働者の給与や税務の基本的な仕組みは、インドネシア人労働者と大きくは変わりません。給与は地域最低賃金を下回ってはいけません。また、給与はインドネシアルピアで支払う必要があります。企業は外国人労働者の給与から 所得税(PPh21) を源泉徴収し、毎月税務当局へ申告・納付する必要があります。さらに、外国人が 12か月の間に183日以上インドネシアに滞在した場合、税務上の居住者とみなされ、海外所得を含めた全世界所得が課税対象になる可能性があります。
また企業は、外国人労働者を BPJS(インドネシアの社会保障制度) に登録するか、それと同等の民間保険を提供する必要があります。場合によっては、雇用終了後に母国へ帰国するための費用を確保する目的で、帰国費用保証金の準備が求められることもあります。
継続的なコンプライアンス義務
外国人労働者を雇用する企業は、労働省に対して定期的な報告を行う必要があります。この報告では、外国人雇用の状況だけでなく、インドネシア人従業員に対してどのように知識や技術の移転(Transfer of Knowledge)が行われているかについても説明する必要があります。
また企業は、雇用契約の内容、就労許可など各種許可証の有効期限、給与に関する記録などの情報を適切に管理し、必要に応じて提出できるようにしておくことが求められます。これらの記録は、外国人雇用の適正な運用を確認するための重要な資料となります。
さらに、企業は職場における安全基準を確保するとともに、従業員に対する教育や研修がインドネシアの労働法に基づいて適切に実施されていることにも注意する必要があります。
法的リスク
労働省や入国管理当局は、外国人を雇用している企業に対して、予告なしで調査を行う場合があります。調査の結果、例えば就労許可を取得していない外国人を雇用している場合や、必要な書類や記録が適切に管理されていない場合など、法令違反が確認された場合には、企業に対して行政上の措置が取られる可能性があります。具体的には、行政罰の対象となるほか、外国人労働者が強制退去となる場合や、企業の事業活動が停止される可能性もあります。
企業には、行政処分に対して不服申立てを行う権利も認められています。しかし、その手続きには時間がかかることが多く、場合によっては専門家による法的サポートが必要となることもあります。また、実務上は、調査や執行の過程において、企業にとって実際上のリスクが生じることもあります。例えば、一定の場面では、外国人労働者の旅券(パスポート)などの渡航書類が、調査手続の間、一時的に当局により保管されることがあります。さらに、適切ではない実務慣行として、手続を早めたり、書類の返還を受けたりするために、非公式な支払いを求められる場面が生じる可能性もあります。
もっとも、公務員に対する非公式な支払いや賄賂の供与は、インドネシア法上禁止されているだけでなく、日本の法律においても外国公務員贈賄などの刑事罰の対象となる可能性もあります。そのため、企業としては、そのような状況に直面した場合であっても、正式な手続を通じて対応し、必要に応じて十分な法的支援を受けることが望まれます。
このように、外国人雇用に関する制度を事前に十分理解し、必要な許可や手続を適切に行いながら、継続的に法令を遵守していくことが、法的リスクを最小限に抑えるうえで最も有効です。
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上原総合法律事務所では、インドネシアへの事業展開をご検討されている企業様を対象に、各種ご相談を承っております。法規制の整理や事業スキームの検討をはじめ、実務面も含めて、企業様それぞれの状況に応じたご相談が可能です。
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