インドネシアのハラール認証: 事業者向け実務ガイド

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コラム
ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

この記事の執筆者:ミユキ・ファッタ・リスキ Miyuki Fattah Rizki

インドネシア大学法学部卒業。インドネシア個人情報保護責任者(DPO)。日本語能力試験1級合格。

弁護士 中村天洋

弁護士 中村天洋
第二東京弁護士会

この記事の監修者:弁護士 中村天洋

司法修習修了後、検事任官(東京地検、水戸地検等)。検事退官後、2021年上原総合法律事務所に入所。インドネシアにおいて現地法人の運営等を行うなど現地の法務にも精通。

インドネシアは世界最大のムスリム人口を有しており   (出典 : World Population Review)、ビジネスを行う上でハラール対応は重要な要素の一つとなっています。飲食店の開業や消費者向け商品の販売など、インドネシア市場への進出を検討する国内外の企業にとって、ハラール規制を正しく理解することは不可欠です。  

本記事では、インドネシアのハラール認証制度について、対象となる事業分野、申請手続きの流れ、そして実務上の重要なポイントを中心に、簡潔かつ実践的に解説します。制度の概要だけでなく、認証の重要性や未対応時のリスクについても理解いただくことを目的としています。 

ハラール認証とは

ハラール認証とは、製品またはサービスがインドネシアの法令に基づくハラール基準を満たしていることを政府が公式に認める制度です。審査は原材料だけでなく、製造工程、保管方法、提供方法など、すべてのプロセスを対象として行われます。

ハラール認証を取得することで、製品が適切な審査を経て、インドネシアで認められたハラール基準に適合していることを示すことができます。

ハラール認証が必要となる主な事業分野

食品・飲料および原材料

肉類や加工食品、飲み物、そして製造に使われる原材料などが対象となります。また、食品添加物など、最終的な商品のハラール性に影響を与える可能性があるものも含まれます。 

医薬品・化粧品関連製品

サプリメントや医薬品、スキンケア・ボディケア製品などが該当します。使用される材料や製造工程において、ハラールに反する成分が含まれていないかを確認するため、認証が必要となります。

飲食サービス・関連業務

レストランやカフェ、食品の加工・保管・包装・流通などが含まれます。この場合、商品だけでなく、取り扱いの過程全体もチェックされ、非ハラールのものが混ざらないように管理されているかが重要となります。

なぜハラール認証がビジネスに重要なのか

ハラール認証は単なる法的義務にとどまらず、特にインドネシアのように多くの消費者がハラールを重視する市場において、ビジネスの価値を高める重要な要素となります。

1.顧客からの信頼向上

ハラール認証を取得することで、商品が基準を満たしていることを消費者に示すことができ、安心感や信頼の向上につながります。 

2.市場拡大の可能性

ハラール認証を取得した商品は、さまざまな流通チャネルで受け入れられやすくなり、より広い市場への展開が可能となります。

3.競争力の強化

ハラール認証は他社との差別化要素となり、市場におけるポジションの向上につながります。

このように、ハラール認証は単なる規制対応ではなく、信頼の獲得や市場拡大、競争力向上のビジネス戦略としても重要な役割を果たします。

よくある誤解:すべての飲食店や食品にハラール認証が必要か

多くの事業者は、レストランや食品、飲料、医薬品、化粧品など、すべての製品にハラール認証が必要だと考えがちです。ただ、この認識は正確ではありません。

インドネシアのハラール製品保証法に基づき、ハラール認証の義務はすべての製品に一律で適用されるものではなく、対象となる製品カテゴリーごとに段階的に適用されます。つまり、義務対象となった製品については認証取得が必要となり、任意で回避することはできません。

一方で、豚肉を使用した食品やアルコール飲料など、明らかに非ハラールである製品については、ハラール認証の取得は義務付けられていません。その場合でも、消費者に対して誤解を与えないよう、正確で分かりやすい情報提供を行う必要があります。

例えば、豚肉を使用したメニューを提供する日本食レストランは、ハラール認証を取得する必要はありませんが、「ハラール対応」といった表示を行ったり、ハラール基準に適合していると誤解されるような表現を用いることはできません。

このように、重要なのは認証の要否だけでなく、製品をどのように位置付け、消費者にどのように伝えるかという点です。

必要書類

ハラール認証の申請にあたり、主に以下の書類が必要となります。

1.事業者番号(NIB)

インドネシアにおける事業者の正式な登録番号であり、ハラール認証の申請において企業を特定するための基本的な情報として使用されます。申請手続きにおいては、企業の身分証明のような役割を持つ重要な書類です。

2.ハラール管理責任者の本人確認書類

ハラール管理責任者とは、企業内において、原材料の選定から製造工程、さらには提供方法に至るまで、すべての流れがハラール基準に適合しているかを確認・管理する担当者です。簡単にいうと、ハラール対応が適切に行われているかを日常的にチェックする社内の責任者です。

申請時には、任命書、本人確認書類(身分証明書)の写し、履歴書、ならびにハラール管理責任者に関する研修の修了証などを提出する必要があります。

3.認証対象となる製品一覧

ハラール認証の対象として申請する製品の名称や種類を記載します。また、必要に応じて、BPOMやPIRTといった販売許可に関する書類を添付する場合があります。

BPOMは、主に全国規模で流通する製品(例えば、スーパーやオンラインで販売される加工食品など)に必要とされる許可です。一方、PIRTは、小規模な食品事業者向けの簡易的な許可です。

例えば、飲食店のように店舗で直接料理を提供する場合には、通常BPOMやPIRTは必要とされません。一方で、ボトル入りのソースや加工食品など、パッケージ商品を販売する場合には、これらの許可が必要となるケースが多く、ハラール認証の申請時に補足書類として求められることがあります。

4.使用する原材料一覧

申請対象となる製品の製造に使用されるすべての材料や関連製品をまとめた書類です。この内容は、事業の種類や業態によって異なります。

例えば、化粧品メーカーでは基礎原料の記載が必要となり、飲食店では肉や調味料などの食材を記載します。また、と畜サービスを行う場合には、処理対象となる動物の種類を明確にする必要があります。一方で、流通業を行う企業の場合には、原材料そのものよりも、非ハラール物質との混入を防ぐための取り扱いや流通の流れの説明が重視されます。

5.製造工程に関する書類

原材料の調達から始まり、受入れ、保管、加工、包装、完成品の保管、そして流通に至るまでの一連の流れを説明します。これらの各段階を具体的に記載することで、製品やサービスがハラール基準を満たしているかが確認されます。

例えば、医薬品の製造会社では、原材料の調達方法や保管方法、加工、包装までの流れを説明する必要があります。一方で、と畜サービスの場合は、動物の受入れ、検査、ハラールに基づいた処理方法、そして処理後の対応について説明します。

6.ハラール保証システム(SJPH)マニュアル 

企業がハラール基準を継続的に守るために整備する社内の管理体制です。このマニュアルには、ハラール対応に関する手順やルールがまとめられています。この書類は単なるガイドラインではなく、日常業務の中で実際に運用されている体制であることが求められます。

7.ハラール宣誓書

企業が自社の製品および製造工程がハラール基準を満たしていること、そして今後もその状態を維持していくことを約束する書面です。この宣誓により、事業者は自社製品のハラール性について、法的および行政的な責任を負うことになります。

ハラール認証の申請の流れ

ステップ①:SiHALALでの申請手続き

まず、事業者は  SiHALAL システム上でアカウントを作成します。事業情報や有効なメールアドレスを入力し、メールでの認証を行うことでアカウントが有効化されます。アカウントの作成が完了すると、システムにログインし、ハラール認証の手続きを開始することができます。 

ステップ②:BPJPHによる確認(目安:約2営業日)

BPJPH(ハラール製品保証実施機関)は、インドネシアにおけるハラール認証制度を運営する政府機関であり、申請の受付から書類確認、認証書の発行までを担当しています。

事業者がデータ入力を完了すると、BPJPHは提出された書類の内容を確認し、受領証(STTD)を発行します。また、検査を行う機関(LPH)の候補が提示され、事業者はその中から選択することができます。

その後、BPJPHは選択されたLPHを正式に指定し、書類確認のみの審査(on desk)または現地での確認(on site)を行います。書類に不備や不足がある場合には、SiHALALを通じて修正や追加提出が求められ、対応が完了するまで次の段階に進むことはできません。

ステップ③:LPHによる検査(目安:約15営業日)

指定されたLPHは、事業者と日程を調整し、実際の製造や営業が行われているタイミングで現地確認を行います。また、必要に応じて製品のサンプルを採取し、検査を行う場合もあります。 

検査結果はBPJPHにも共有される形で、MUIに提出されます。報告内容には通常、以下のような項目が含まれます: 

  • 製品名および種類
  • 使用されている製品・原材料
  • ハラール製品に関する管理内容(PPH)
  • 分析結果や原材料の仕様
  • 検査結果の記録
  • 総合的な評価・意見

ステップ④:MUIによるファトワ審議(目安:約3営業日)

MUI(インドネシア・ウラマー評議会)は、ハラールであるかどうかを最終的に判断する機関です。LPHから提出された報告内容をもとに、ファトワ委員会が審議を行い、製品のハラール性を判断します。その結果は「ハラール認定書」としてまとめられ、BPJPHに提出されます。この書類が、ハラール認証発行の根拠となります。

ステップ⑤:ハラール証明書の発行(目安:約1営業日)

BPJPHは、MUIからハラール認定書を受領した後、ハラール証明書を電子形式で発行します。事業者は、自身のSiHALALアカウントから証明書をダウンロードすることができます。

ハラール認証にかかる費用

ハラール認証の申請にあたっては、主に以下のような費用が発生します。 

  • 申請費用
  • 検査および必要に応じた試験費用
  • ファトワ審議費用
  • 証明書発行費用

これらの費用は一定の基準に基づいて定められていますが、実際の金額は、製品やサービスの内容や確認の難しさによって異なる場合があります。一般的な目安として、外国人や外国企業の資本が入った会社(いわゆるPMA)の場合、申請費用は約1,250万ルピア(※2026/05/12時点の為替レートで約112,554円相当)とされています。

もっとも、実務上は、申請費用だけでなく、書類サポート費用やLPHによる監査費用なども含めて検討されることが一般的です。実際には、製品数、原材料の種類、監査内容等によって変動しますが、全体としては概算で約2,000万〜5,000万ルピア(約180,087〜450,217円程度)となるケースも多いとされています。 

また、検査費用については、製品の種類ごとに上限が設定されています。主な例は以下のとおりです。 

  • 医薬品・化粧品・生物製品:約590万ルピア(※同日時点で約53,126円相当)
  • ポジティブリスト製品/比較的シンプルな内容の製品:約300万ルピア(※同日時点で約27,013円相当)
  • 一般消費財および包装関連製品:約3,937,000ルピア(※同日時点で約35,450円相当)
  • 遺伝子組換え製品:約5,412,500ルピア(※同日時点で約48,736円相当)
  • サービス関連:約5,275,000ルピア(※同日時点で約47,498円相当)
  • レストラン・ケータリング・食堂:約3,687,000ルピア(※同日時点で約33,199円相当)
  • ワクチン:約21,125,000ルピア(※同日時点で約190,217円相当)
  • と畜場・と畜サービス:約3,937,000ルピア(※同日時点で約35,450円相当)
  • 香料・フレグランス:約7,652,500ルピア(※同日時点で約68,906円相当)
  • 加工食品・化学製品・微生物製品:約6,468,750ルピア(※同日時点で約58,247円相当)
  • ゼラチン:約7,912,000ルピア(※同日時点で約71,242円相当)

これらの金額はあくまで上限の目安であり、実際の費用は個別の条件によって異なる場合があります。

実務上のポイント

費用だけでなく、書類の準備や社内体制の整備にかかる時間や手間も考慮することが重要です。あらかじめ準備を整えておくことで、全体の負担を抑えつつ、スムーズに手続きを進めることができます。

海外でハラール認証を取得している企業の場合

海外でハラール認証を取得している場合でも、必ずしもインドネシアで最初から申請を行う必要はありません。一定の条件を満たす場合には、海外の認証を登録することで対応できるケースがあります。そのためには、当該認証がインドネシアの関係機関により認められ、同等と判断されていることが前提となります。

認証が同等と認められた場合は、書類確認のみで手続きが進むことがあり、再度の検査は不要となります。一方で、認められていない場合には、インドネシアで通常の認証手続きを改めて行う必要があります。例えば、日本のレストランやカフェが、Nippon Asia Halal Association(NAHA)など認められた機関の認証を取得している場合には、再検査を行わずに登録のみで対応できる可能性があります。反対に、認められていない場合は、現地での検査が必要となります。

費用面では、この登録手続きは新規申請に比べて比較的負担が軽く、目安として約80万ルピア(※同日時点で約7,203円相当)程度とされています。ただし、この金額にはすべての費用が含まれているわけではなく、実際にはファトワ審議や証明書発行に関する費用などが別途発生します。

さらに、海外で既にハラール認証を取得している企業については、インドネシア側での申請費用を比較的抑えられる可能性があり、ケースによっては全体費用が約1,000万ルピア(約90,043円程度)まで下がる場合もあるとされています。もっとも、海外認証機関側の要件に応じて、既存認証の更新や追加対応が必要となる場合があり、その際には別途費用が発生する可能性があります。海外認証が認められている場合は、検査が簡略化される分、全体としての負担を抑えられる点が特徴です。海外認証が認められている場合は、検査が簡略化される分、全体としての負担を抑えられる点が特徴です。

ハラール認証を取得しない場合のリスク

ハラール認証を取得していない場合、特に本来認証が必要な製品やハラールであると表示している製品については、法的およびビジネス上のリスクが生じる可能性があります。

インドネシアの法令に基づき、認証義務を満たしていない場合には、警告や商品の回収、事業活動の停止といった対応が取られることがあります。また、認証がない状態でハラール表示を行うことはできず、誤解を招く表示はクレームやトラブルの原因となります。

さらに、ハラール認証がないことで、流通や取引の機会が制限される場合もあります。特に食品・飲料分野では、取引先や販売チャネルから認証を求められるケースが多く見られます。

一方で、アルコールや豚肉を使用した製品など、明らかにハラールではないものについては、認証は必須ではありません。この場合は、消費者に対して正確な情報を提供することが重要です。

お気軽にお問い合わせください

上原総合法律事務所では、インドネシアへの事業展開をご検討されている企業様を対象に、各種ご相談を承っております。法規制の整理や事業スキームの検討をはじめ、実務面も含めて、企業様それぞれの状況に応じたご相談が可能です。

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